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UX組織のメンバーが、いま身につけるべき力について

Yusuke Inoue
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UXという仕事は、この数年で大きく変わりました。

AIが実用的なレベルで使えるようになってから、この1〜2年 ―― UXの現場は、それまでにない目まぐるしい変化の中に置かれています。しかも、まだ変化の真っ最中で、「どう変わったか」を言い切れないほど、状況は動き続けている。

そんな時代に、UX組織で働くメンバーは、いま何を身につけるべきなのか。私がいま考えていることを書いてみたいと思います。


AIによって、UXの仕事は「速さ」と「幅」が変わった

まず、AIの登場によってUXの仕事に起きた変化を、私なりに書いてみます。

ひとつは、スピード感です。リサーチにしても、分析にしても、レポート作成にしても、AIをどこかしらのフェーズに入れられる余地があるので、仕事のスピードは間違いなく上がっています。

もうひとつは、リサーチの幅と量です。これまで手動では回しきれなかった定性調査を大量に回せるようになったり、逆にリサーチャーではない人でも一定のクオリティで調査に臨めるようになったり。UXの敷居そのものが、確実に下がってきています。

そしてもう一点、これは少し違う角度の変化ですが、「ユーザー」自体が変わりつつあるという現象もあります。ユーザーが日常的にAIを使うようになった結果、検索の体験ひとつ取っても、大きく変わってきている。さらに言えば、ユーザーそのものがAIというパターンも増え始めています。AIが読みやすい構造にする、AIエージェント向けの設計をする ―― これがUXの領域に含まれるかは議論の余地がありますが、確実に新しい仕事が生まれ始めているのは事実です。


AIがあるからこそ、「オフラインの体験」がより大事になる

こう書くと「これからのUXはAI一色」に聞こえるかもしれませんが、私はむしろ逆の見方もしています。

AIが普及したからこそ、オフラインの体験が、これまで以上に大事になると考えているのです。

そもそも「すべてをAIで置き換えていいのか」という議論もあると思います。例えば、キャンプ場にロボットがいたら、人はどう感じるでしょうか。デジタルから離れて自然を感じに来ているのに、そこにロボットがいるのは違うと感じる人もいるはずです。

だからこそ、AI時代のUXデザイナーやリサーチャーには、オフラインの体験を見つめ直す視点が求められると私は思っています。しかも、これは仕事の中でしか鍛えられないものではありません。日常生活の中で、レストランに行った時、旅行に行った時、「この体験は良かったな」「自分だったらこうするな」と観察する。友達と一緒なら「今のどう感じた?」と聞いてみる。オフィシャルなリサーチでなくても、日々鍛えられる力なのです。


AIとの「境界線」は、自分で試して掴むしかない

AIをどこまで使い、どこから自分でやるべきか。この境界線について、私はこう考えています。

答えは、人によって違うし、案件によっても違う。だから、自分で試して掴むしかないと。

私自身のやり方をお伝えすると、最近は「基本、まずAIに全部投げてみる」というスタイルを取っています。全投げして、AIができない部分だけを自分でやる。それを何回か繰り返すと、「大体この辺までがAIにできることだな」という感覚が掴めてきます。

一方で、自分で少しずつやりながら、AIに部分的にやらせて、差分を見て学ぶタイプの人もいると思います。どちらのやり方でも良くて、自分に合うほうを探すのが大事です。


キャリア段階ごとに、意識すべき「力」は違う

ここで、ジュニア・ミドル・シニアという段階別に、私が思っていることを書いてみます。

ジュニアの方は、まず経験を積むところから始めるといいと思います。

AIがあるからといって、基礎知識をAIに聞くのはいいのですが、実務そのものをいきなりAI経由で回すのは、正直、あまり推奨しません。UXが何かを頭で理解するまでは、AIを使っても納得感のある判断ができないからです。基礎的なリサーチをやってみる、実際にユーザーの声を聞いてみる ―― そういう経験を経てから、AIとの付き合い方を考えたほうがいい。ただし、これはAIネイティブ世代には別の最適解があるかもしれない、というのが正直な感覚です。

ミドルの方は、研究に時間を使ってみるのがいいのではないかと思います。

ある程度経験を積んだ人は、AIの活用で作業時間が短くなっているはずです。その空いた時間で何をするか ―― ここが、これからのUX人材にとって決定的な差になると私は考えています。ひとつの提案は、自分なりの研究をすることです。既存の調査手法を振り返って、自分なりのフレームワークやメソッドに落とし込む。それが本当にワークすれば、次のステージに上がる大きなきっかけになります。

シニアの方は、最新情報への感度を保つことが大事になってくると思います。

年齢を重ねると、新しいことを取り入れる意欲は自然と衰えていきます。それは当たり前のことです。ただ、シニアにはそれを乗り越える意識が必要だと思います。UX×AIの領域は、海外でも活発に議論されています。そうした情報を拾い、自分のチームに共有し、組織で使えそうなものは試してみる。この動きは、シニアだからこそやるべきことです。


マネジメント経験を積める機会が、減っている

もうひとつ、いまの時代特有の話をしておきたいと思います。

マネジメントは大事な仕事ですが、マネジメント経験を積める機会自体は、確実に減っていると、私は見ています。

理由はシンプルで、1チームがどんどん小さくなっているからです。AIの登場で、少人数でもアウトプットが出せるようになった。組織はより縦割りになり、1チームあたりの人数が減っている。今後はそういうポジションが徐々に減っていくのではないかと感じています。

人数が多いほど良い、という話ではありません。ただ、人数が多いと、それだけ「話題」が多い。マネージャーとして経験を積める場面が多いのです。人によって悩みが違い、コミュニケーションのパターンも違う。この多様性の中で試行錯誤することが、マネジメント力を鍛えます。

だからこそ、もしいまマネジメント経験を積める機会があるなら、やってみることを、私はお勧めします。「スペシャリスト」か「マネジメント」かという二択も、これからは変わっていくかもしれません。マネジメントを一つの職種として捉え、その経験をどこかの分野で積んでいく ―― そういう発想が広がっていく可能性を、私は感じています。


「新しいものを生み出す」というステージへ

最後に、UX組織で働くメンバーの方に、伝えたいことがひとつあります。

UXを専門にしている以上、「新しいリサーチ手法」「新しい調査観点」「新しい指標」を、世に出せるようになると、また一つ上のステージに上がれると私は思っています。

これは、個人にとってもいいことですし、周りの人にとっても、会社にとってもプラスです。既存のリサーチのやり方に少しでも違和感があるなら、それをきっかけに新しい方法を試してみる。ダメだったらダメで構わない。試してみること自体に、価値があります。

これは、AIの登場で「作業時間が短くなった今だからこそ」できることでもあります。時間ができた分を、新しいものを生み出す方向に使う ―― そういう選択肢が、これからのUX組織のメンバーには開かれているのだと、私は考えています。


いまも変化の途中にいる

この記事に書いたことも「正解」ではありません。いまはUXの仕事が変わり続けている真っ最中で、私自身もまだ答えを探している最中です。

ただ、変化の途中だからこそ、いまこそ試行錯誤する価値があるのだと思っています。この記事を読んでくださった方が、自分なりの「いま身につけるべき力」を考えるきっかけになれば嬉しいです。