Deal

UXデザイナーを「育てる」ということについて

Yusuke Inoue
10 分で読める

UXの現場に長くいると、「UXデザイナーをどう育てていますか?」と聞かれることがあります。マネージャーや経営者、あるいは現場のリードクラスの方から、真剣に問われる質問です。

正直に言うと、私はこの質問に対して、少し答えにくさを感じてきました。「こう育てています」と胸を張って言えるほど、体系立った育成論を持っていないからです。むしろ、私が現場で実感していることは、「誰かが誰かを育てる」というのは、思っているよりずっと難しいということだったりします。

今日は、「UXデザイナーを育てる」という営みについて、そして「UXの現場で伸びる人には、どんな特徴があるのか」について、いま考えていることを書いてみたいと思います。


「直接教えて育てる」ということは、あまりない

育てる場面で私がしてきたことを振り返ってみると、「直接何かを教えて育てる」ということは、実はあまりないというのが正直な実感です。

もちろん、基礎的な手法や理論は、本を読めば学べます。今ならAIに聞いても、かなりのことがわかる時代です。だから、テクニカルな知識のインプットは、本人がやろうと思えばできる。

私が意識しているのは、そこよりも手前の部分です。それは、普段から「相手のことを考える」姿勢を持ち続けているかどうかということ。

UXの仕事は、結局のところ、ユーザーやクライアントの立場に立って考えることがとても多い仕事です。これは、業務時間だけで身につくものではないと私は思っています。日々、周りの人を観察している人、他人の気持ちを想像している人 ―― そういう姿勢が普段から染みついている人が、結果的にUXの仕事でも深いところまで到達できる。

だから私は、育てるというより、「日頃からこういう視点を持ってみると繋がるよ」と、アドバイスに近い形で伝えることが多いです。仕事とプライベートで分けられるものではなく、生活の中で自然と培っていく姿勢の話なので。


マネージャーができるのは「機会を作ること」

ただ、そうは言っても、マネージャーには役割があります。私が意識してきたのは、メンバーが成長できる機会をどう作るかということです。

具体的には、大きく4つあります。

1つ目は、リサーチや実践の場を提供すること。

UXリサーチャーであれば、自社のプロダクトのリサーチを企画して任せる。UXデザイナーであれば、実際の設計プロジェクトを担当してもらう。マーケや経営企画がユーザー調査を担っている会社であれば、UX側からも「うちで一度やってみよう」と企画を立てる。まず、やる場を作らないと、育つも育たないもない。ここは、マネージャーが動くべき部分です。

2つ目は、他職種と関わる機会を作ること。

これは意外と大事だと思っています。UXデザイナーがUXデザイナーとだけ仕事をしていると、どうしても視野が凝り固まってきます。リサーチの結果が出たら、それを実装する開発チームがいて、その先で運用する現場がいて、経営判断をする層がいる。関係者と接点を持ちながら仕事することが、UXの本質的なスキルを鍛えるのです。

「リサーチしました、課題出ました、担当部署の方よろしくお願いします」で終わるプロジェクトは、大抵うまくいきません。他部署の人が日頃どんなことを考えて動いているかを実感しながら、自分の仕事を組み立てる。そのために、他職種と関わる機会を意識的に作る。マネージャーの仕事のひとつだと思います。

3つ目は、外の情報に触れる機会を作ること。

セミナー、カンファレンス、業界イベント ―― 外に出て情報を得ることは、UXのような専門職では特に大事です。行きたいものがあれば、できる限り行かせる。マネージャーとしては、そこを支援したい部分です。

4つ目は、失敗できる環境を作ること。

これも、大事な「機会」のひとつです。私は、若手のうちはむしろ、どんどん失敗した方がいいと思っています。

自分自身が新卒だった頃、上司からのフィードバックはいつも「もっと失敗しろ」でした。当時は嫌でしたが、いまになって振り返ると、あの時もっと失敗しておけばよかったと心から思います。5年、6年と経験を重ねた後で同じ失敗をすると、「え、この人は何をやっているの?」と周りから見られてしまう。でも、新卒1年目、2年目なら、同じ失敗をしても周りが助けてくれる。失敗できるタイミングは、意外と限られているのです。

もちろん、会社が潰れるレベルの失敗をされては困りますが、任せられた範囲の中での失敗は、全然許されること。だから、メンバーが失敗した時、私は必要以上に責めません。むしろ、その失敗をどう学びに変えていくかを、一緒に考えるようにしています。


1on1は、成長を支える時間だと思っている

これら4つの機会を支える土台として、私が大事にしているのが1on1の時間です。

1on1のやり方については、いろんな本や記事が出ています。ただ、私の考えとしては、「これが正解」というやり方は存在しないと思っています。相手に合わせて、パーソナライズすべきものだからです。

そして、1on1で常に仕事の話をしなければならないとも、私は思っていません。むしろ大事なのは、「言いにくいことでも言える関係」を作ることです。

仕事をしていれば、言いにくいことは必ず出てきます。仕事が辛くて残業を減らしたい、プライベートで忙しい時期がある、キャリアについて悩んでいる、失敗して落ち込んでいる ―― こうしたことを、いざという時に言える相手であるかどうか。1on1という時間は、そのための関係性を作る場だと、私は考えています。

だから、雑談だけで終わる回があってもいい。コーヒーを飲みながら世間話をするだけの日があってもいい。その積み重ねが、いざという時のセーフティネットになる。仕事の進捗確認だけをする1on1は、それはそれで意味があるけれど、私はそれを「1on1」とは呼びたくない、というのが本音です。


では、伸びる人には、どんな特徴があるのか

ここまでは「育てる側」の話をしてきました。ここからは、「育つ側」の話をしたいと思います。

私がこれまで見てきた中で、UXの現場で伸びる人には、いくつかの共通点があります。

1つは、普段から他人のことを考えられる人。

これは職能というより、その人が育ってきた環境や経験の中で身についてきた姿勢だと思います。仕事の場面だけでなく、日常生活の中で、相手の立場に立って物事を見ることができる。この基礎がある人は、UXの仕事に入ってからも、深いところまで到達するのが早い。

逆に、これまで数字を追う仕事や、営業成績を上げる仕事をしてきた人が、UX領域に転職してくるケースでは、少しハードルが高くなることがあります。もちろん、営業でも「相手の課題を掴んで解決する」という姿勢がある人はUXにも馴染めます。でも、「相手が見えている」感覚を持っているかどうかが、初期のスピードに大きく影響することは確かです。

2つ目は、成長への意欲がある人、そしてそれが続く人。

成長したい理由は、正直、なんでもいいと思っています。誰かに負けたくない、お金持ちになりたい、その領域のプロになりたい ―― 理由は問いません。大事なのは、意欲がありつつ、それが続くことです。一過性のモチベーションではなく、持続する動力を持っているか。

もし、ある時点で意欲が続かなくなったのなら、それは別の職種に移るタイミングかもしれません。UXデザイナーやリサーチャーを一生続ける必要はない。むしろ、UXを経験した後で別の仕事に就くと、ユーザー視点や相手の立場を考える力が、他の職種でも大きな武器になります。一度この領域を経験することは、その後のキャリアにも活きるものだと私は思っています。

3つ目は、近くに「ロールモデル」がいる人。

これは、本人の資質というより環境の話ですが、大事な要素です。「この人みたいになりたい」と思える相手が近くにいると、成長スピードは確実に上がります。憧れは、意欲の持続にも繋がる。マネージャーとしては、そういう存在に出会える環境を作ってあげることも、役割のひとつかもしれません。


結局、育てるのは「本人」である

ここまで書いてきて、改めて言葉にしておきたいことがあります。

「マネージャーが育てるから伸びる」のではなく、「本人が伸びるから伸びる」というのが、私の考えです。

マネージャー1人で誰かを伸ばすことは、正直、できません。素質もあるかもしれませんが、いちばん大きいのは、本人のやる気と姿勢です。

成長しようとしている時、人は変化を恐れていない状態にあります。変化は本来、怖いものです。それを恐れず、新しいことに踏み出せている時、その人は圧倒的に強い。マネージャーができるのは、その方向性をほんの少し支えたり、道が逸れそうな時に「ちょっと右かな」「ちょっと左かな」と伝えたりする程度のことだと思っています。

他人のモチベーションを、外側から上げるのは無理です。モチベーションが落ちないように支えることは、多少できるかもしれない。でも、そもそもモチベーションがない人に、外から火をつけるのは、本質的にはできないことだと私は考えています。


マネージャーは、メンバーより「人を見る力」が必要

最後に、UXデザイナーやリサーチャーを育てる立場のマネージャーや経営者の方に、伝えたいことがあります。

UXの仕事をしている人たちは、「人を見ること」を仕事にしている人たちです。ユーザーを観察し、その気持ちや状況を理解しようとするのが、日々の業務です。

その人たちを育てるには、彼ら・彼女ら以上に「人を見る力」が必要になると、私は考えています。これは相当に難易度が高い。マネージャーや経営者は、他にもたくさん仕事を抱えている中で、それでもメンバー一人ひとりを丁寧に見なければならない。

でも、ここは疎かにしてはいけない部分だと思っています。マネジメントの本質は、結局のところ、どれだけメンバーを見ているかなのです。仕事の状況だけでなく、心の状態、プライベートの状況、成長のフェーズ ―― 人に興味を持てない人には、この仕事は向いていない。私はそう思っています。


自分自身が成長したいと思っている人へ

反対に、「自分が成長したい」と思っているUXデザイナーやリサーチャーの方には、こう伝えたいと思います。

もし若手であれば、とにかく数をこなすことを、私は勧めます。リサーチでも、デザインでも、実際にやって学ぶことに勝るものはありません。会社やマネージャーが仕事を用意してくれるならラッキー。でも、それを待つのではなく、「こういうリサーチをするのはどうですか」と自分から提案し続ける姿勢が大事です。

提案は、全部が通る必要はありません。予算やスケジュールの都合で通らないことは、当然のように起こります。でも、めげずに提案し続ける。その姿勢が、成長速度を決めていくと思っています。

すでにある程度経験を積んでいる方であれば、私が意識してほしいのは、外部環境の変化に対する感度です。時代とともに、人は変わります。10年前に有効だった質問が、いまも同じように有効とは限らない。「いまの時代、この質問はまだ機能しているか」を、常に問い続ける姿勢が、経験者には求められると思っています。


最後に

「育てる」という言葉には、どこか一方向的な響きがあります。育てる側と、育てられる側。上から下へ。

でも、実際に現場で起きていることは、もっと双方向です。マネージャーが教えることもあれば、メンバーから学ぶこともある。伸びていくのは本人だけれど、その環境を作るのはマネージャー。両者が噛み合った時、はじめて成長は加速していきます。

私自身、いまも試行錯誤の途中です。この記事に書いたことも、「これが正解」という話ではありません。あくまで、私が現場で感じてきたことを、いま言葉にしてみた ―― そういうものとして、受け取っていただけたら嬉しいです。