Deal

UXは、点ではなく全体で見るもの ―― UXの「広さ」について

Yusuke Inoue
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UXコンサルティングという仕事を続けていると、「UXとは何ですか」と聞かれることがあります。

正直、答えるのは簡単ではありません。聞く人によって、UXという言葉が指す範囲がまったく違うからです。UIのことをUXと呼ぶ人もいれば、リサーチやデザイン全体を指す人もいる。会社によっても理解は異なります。

ただ、私がDealを立ち上げ、これまでクライアントワークを続けてきた中で、確信していることがあります。それは、UXは画面の中だけでは絶対に作れない、ということです。


「店舗に立ったとき」に気づいたこと

その確信に辿り着いた原体験は、Dealを立ち上げる前にあります。

私はかつて、自社サービスのリアル店舗に立って、接客をする機会がありました。Webやアプリの設計を仕事にしていた人間が、実際にお客様の声を直接聞く現場に身を置いた。すると、それまで画面の中で考えていた「ユーザー体験」が、いかに一部分にすぎなかったかを、肌で感じました。

店舗で集めたインサイトが、そのまま店舗内の改善で終わらない。Webの導線をこうした方がいい、カスタマーセンターの応対をこう変えた方がいい ―― そんなアイデアが、現場の会話から次々と生まれてくる。逆もまた然りで、Webから得た知見が、店舗やCSの改善に繋がることもある。

ユーザーとのタッチポイントは、すべて繋がっている。

それを目の当たりにしてから、私は「Webやアプリだけ見て、UXを語ることはできない」と考えるようになりました。サービスのある一面だけで体験が決まることは、まずないのです。


一つの過ちが、サービス全体の「悪い」につながる

もうひとつ、強く実感している例があります。

たとえば、私たちが作っているこのプロダクトの体験がどれだけ良くても、「ちょっと使い方が分からない」と問い合わせた時の対応が悪ければ、ユーザーは「対応が悪い」ではなく、「サービス自体が良くない」「会社が良くない」と感じるはずです。

ユーザーは、プロダクト単体で体験を切り出して評価したりはしません。サービス全体、会社全体の体験として、印象を持つ。だから、プロダクトだけを磨いても、それ以外のタッチポイントが悪ければ、結局UXは破綻してしまいます。

UXは、画面の中だけで完結する話ではない。すべてのタッチポイントを、ひとつの体験として捉える必要があります。


DealがUXファームを名乗ることに、迷いはなかった

UXという言葉が曖昧であるにもかかわらず、私たちはDealを「UXファーム」と名乗ることに迷いませんでした。

理由はシンプルです。UX、つまりユーザーエクスペリエンスという単語に立ち返れば、結局のところ「体験を作ること」が私たちの仕事の本質だからです。

体験を作るためには、UIも、店舗も、カスタマーセンターも、すべて関わってきます。さらに言えば、UXだけ追求していてもビジネスは成り立たない。ユーザーが望むものをすべて叶えても、それが事業として継続できなければ意味がありません。だから私たちは、ビジネスや開発の制約とも一緒に考えながら、体験を作っていくことを仕事にしています。

UXファームと言っても、UXだけを考えているわけではない。ビジネスや開発と並走しながら、その制約の中で最良の体験を設計するのがDealの仕事です。範囲が曖昧であることに、私はあまりネガティブな感覚を持っていません。むしろ、窓口が広がっている分、いろんな入り口からクライアントに関われると考えています。


「UX」と聞いて、UIの話をする人もいる ―― それでいい

実は、コンサルティングをしていると、「UIのことをUXと呼んでいる」クライアントに出会うことが少なくありません。

これに対して、「それは厳密にはUXではないですよ」と否定する必要はないと考えています。UIに違和感を感じているということは、どこかで体験が損なわれているということです。だったら、その入り口から一緒に体験全体を見直していけばいい。窓口が広いことは、私たちにとっても、クライアントにとっても、悪いことではありません。

UXという言葉の定義を巡る議論よりも、目の前の体験をどう良くするか。Dealではそこに集中したいと考えています。


なぜ「UX部署」を作っても、UXは根付かないのか

クライアントから「UX部署を作りたい」「UXデザイナーを採用したい」という相談を受けることがあります。

形から入ること自体は、スタートとしては悪くありません。ただ、私の経験上、「UX部署を作ったのに、組織にUXが根付かない」というケースは非常によく見ます。

最もよくあるのが、制作系の部署の名前を「UX」に変えるだけのパターン。あるいは、マーケティングの中にUX部を作るパターン。隣接する部署ではあるけれど、本質が違うので、なかなか機能しません。

なぜ機能しないのか。私の答えはひとつです。「UX部以外の人が、どれだけUXの重要性を理解しているか」で、組織にUXが根付くかどうかが決まるからです。

UXは、営業やマーケティングのように「今月の達成率150%です」と分かりやすい数字を出せる部署ではありません。効果を測ろうとすれば、また調査が必要になる。シンプルではない領域だからこそ、他の部署や経営層に、その価値を理解してもらう活動こそが、UX責任者の最も重要な仕事だと私は考えています。

物事の優先順位を決める時に、経営トップから「UX的にはどうなの?」という一言が自然と出てくる ―― そこまでいって、ようやくUXが組織に根付いたと言えるのではないかと思います。


UXは『職種』ではなく『文化』として持つもの

少し話が逸れますが、Dealのメンバーの全員がUX出身というわけではありません。ビジネス側の経験者もいれば、プロジェクトマネージャー出身者もいます。それでも、メンバー全員が「UXは自分のものだ」と感じて働いていると、私は実感しています。

なぜそうなっているのか。考えてみると、Dealには「なぜそうするのか」をきちんと言語化する文化があります。提案する時も、議論する時も、結論だけでなく、その判断に至った背景や考え方のプロセスを丁寧に説明する。それがDealでの仕事のデフォルトになっています。

この文化があるからこそ、UX出身ではないメンバーも、UXの思考プロセスを日々のやりとりの中で吸収できるのです。「こういう場面では、こう考えるんだな」という積み重ねが、UXの考え方を自然と「自分のもの」にしてくれる。

「人を想う」というブランドコンセプトを掲げているのも、こうした姿勢を会社全体で持ち続けるためです。

UXは、専門部署や専門職にだけ宿るものではない。会社の姿勢として持つものだと、私は考えています。


5年後、「UX」という言葉は残っているか

最後に、これは仮説ですが、5年後、10年後には「ユーザーエクスペリエンス」という単語そのものが、いまの形では残っていないかもしれないと思っています。

たとえば、AIにトイレットペーパーの購入を任せる時代になれば、Amazonで商品を探して選んで買うという「ユーザーの体験」自体が消えていきます。代わりに、AIエージェントがいかにスムーズに購入できるかという、AI向けのエクスペリエンスを設計する必要が出てくる。

つまり、体験する主体が、人間だけではなくなる時代が来る可能性がある。そうなれば、UXという言葉の守備範囲も、いまとはまったく違うものになっているはずです。

ただ、ひとつだけ変わらないことがあります。誰かが、何かを体験するということは、絶対になくならない。その体験を突き詰めて考えるという仕事の本質は、これからも変わらないのです。

だからこそ、Dealは時代のアンテナを高く立てながら、体験を作る仕事を続けていきたいと考えています。「UXとは何か」の答えは、これからも変わり続けるはずです。けれど、その変化を恐れず、誰かのより良い体験を作る ―― その姿勢だけは、Dealがずっと持ち続けるものでありたいと思っています。